生前贈与は土地活用をスタートする前後どちらも可能!失敗しないポイントは?
生前贈与は、相続が発生する前に、財産を誰かに渡すことです。
無償で財産を渡すだけでなく、著しく低額で譲渡するのも贈与とみなされます。
生前贈与は、相続税を減らすために行われることも多いですが、贈与すれば若い世代が資産をすぐに活用できるのもメリットです。
ただし贈与税は税率が高いので、注意が必要です。
場合によっては節税を目指した生前贈与が逆効果となり、相続税・贈与税を合計すると納税額が増えてしまう可能性もあります。
生前贈与のタイミングや内容は、専門家に相談した上で慎重に検討することが大切です。
2015年の税制改正で相続税の基礎控除額が減ったことで、相続税の課税対象となる方が増えたため、生前贈与を検討する人も増えてきました。
ただし、生前贈与による相続税の節税が難しくなるような税制改正も検討されています。
計画的な生前贈与・相続対策のために、この記事をご参考にしてください。
この記事の内容
1.生前贈与するなら知っておきたい贈与税の仕組み
贈与税は、贈与された人が払うというのが特徴です。
生前贈与では、暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらかを使います。
贈与税が一定額までかからない様々な制度があるので、うまく活用すると節税につながります。
1-1.毎年コツコツ「暦年贈与」
贈与税の基礎控除額は110万円です。
毎年1月1日から12月31日までに、ある人が受け取った財産が110万円までなら贈与税がかかりません。
贈与税は110万円を超えた部分にかかりますが、税率は相続税より割高です。
この仕組みを利用して、年に110万円以下の額を非課税で贈与する方は大変多いです。
「暦年贈与」は、少しずつ時間をかけて生前贈与したいときに向いています。
ただし、一定金額を毎年贈与したりすると、合計額を一括で贈与したものとみなされて贈与税の対象になってしまうこともあるので注意してください。
参考:国税庁タックスアンサー「贈与税がかかる場合」
暦年贈与の弱点は多額の資産を短期間に贈与しにくいという点です。
資産がかなり多い場合には、年に110万円の贈与では節税対策には足りないかもしれません。
なお、亡くなる直前に贈与した財産は相続税の計算のときに相続財産に加算されるので注意が必要です。
これが生前贈与加算です。
相続が発生したときに、過去3年以内に相続人等に贈与された財産は持ち戻して(=相続財産に加えて)相続税を計算します。
持病が悪化したときなどに駆け込みで生前贈与を行うのは難しいので、相続対策や生前贈与は早めにはじめることが大切です。
【コラム:贈与税の改正の動きに注視が必要です!】
近年、「相続税と贈与税の一体化」が議論されています。
生前贈与による節税効果を弱めるような税制改正が検討されているため、不安に思っている富裕層の方も多いようです。
具体的な改正としては、生前贈与加算の年数の延長などが考えられます。
令和4年度税制改正大綱(2021年12月10日公表)では大きな変更は見送られましたが、来年度以降に持ち越して議論されることになるため今後も注視が必要です。
1-2.まとめて渡せる「相続時精算課税制度」
相続時精算課税制度を使うと、累計2,500万円まで贈与税が課税されません。
2,500万円を超えた部分には贈与税が一律20%かかります。
相続が発生したときには、相続時精算課税制度で贈与した財産を相続財産に加えて相続税を計算し、すでに納税した贈与税は差し引きます。
2,500万円まで贈与税は課税されませんが、贈与した財産を最終的には「戻して」計算するので、節税できるとは限りません。
相続時精算課税制度は、相続を前倒しして財産を渡すことができる制度です。
父母や祖父母が60歳以上、子や孫が20歳以上の場合に制度を利用できます。
【特徴1】資産が値上がりすると有利になる
贈与済みの財産を相続財産に「戻す」ときの値段は、贈与時の評価額になります。
そのため、相続時に値上がりしているときは計算が有利です。
例えば大きな値上がりが予測される株式などを相続時精算課税で贈与するケースもみられます。
【特徴2】小規模宅地等の特例が使えない
相続時精算課税制度を使って贈与した財産については、小規模宅地等の特例が使えません。
小規模宅地等の特例は、評価額が最大80%減額されて大きな節税効果が見込める制度です。
1-3.「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の選び方
「相続時精算課税」を選択すると、暦年贈与は使えなくなります。
いったん「相続時精算課税」を選択すると、その選択は取り消せないので慎重に決めることが大切です。
相続時精算課税制度は、非課税で贈与できたように見えても、相続時には持ち戻しされてしまいます。
そのため、多額の資産がある場合は、暦年贈与の非課税枠を使って少しずつ財産を移転したほうが、相続時精算課税よりも有利な場合があります。
「相続時精算課税」を利用するかどうか決めるには、贈与税と相続税の合計額で考える必要があります。
税理士に相談して相続税と贈与税のシミュレーションをしてから決めることをおすすめします。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
1-4.贈与税に関するその他の非課税制度
贈与税には他にも次のような非課税制度があります。
利用するにはそれぞれ要件があるためご確認ください。
- 住宅取得資金に係る贈与税の非課税制度
- 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度
- 結婚・子育て資金に係る贈与税の非課税制度
- 居住用不動産を贈与した時の配偶者控除制度(おしどり贈与)
2.土地を生前贈与するタイミングは?アパートを建ててから生前贈与する方法もある
土地を生前贈与したいと考えたときには、どんなタイミングが有利なのでしょうか。
利用していない状態で贈与する方法と、アパートなどを建ててから贈与するときのポイントについて解説します。
2-1.活用していない土地を生前贈与する方法
建物などを建てていない土地を生前贈与するメリットは、次世代が自由に活用できるという点です。
子どもが自分の好きな用途に使うことができるので喜ばれる可能性が高いでしょう。
また、アパートローンに年齢の上限はないのが一般的ですが、親世代が高齢で団体信用生命保険(団信)が付けられないときでも、子供の名義なら団信付きでアパートローンを組めるというメリットがあります。
団信を付ければ、万が一のときに借入額が保険金によって返済されるという安心感が得られます。
2-2.アパートを建ててから生前贈与する方法
相続税の節税対策として、アパートを建ててから生前贈与するときには、建物だけを生前贈与する方法もあります。
土地も贈与すると贈与税が高くなりやすいためです。
家賃収入を生んでくれる建物だけを贈与すれば、相続財産が減少すると同時に、子供が家賃を受け取ることができるので納税資金を準備できます。
アパートの建物部分だけを先に生前贈与するときは、贈与相手に敷地を相続させることを遺言に書いておいてください。建物と敷地の所有者が分かれてしまうと権利関係が複雑になってしまいます。
【アパートを建ててから生前贈与するときの注意点】
アパートを建ててから生前贈与するときには、内容によって財産評価の方法が変わります。
2つの注意点をご紹介しますが、少しマニアックな内容なので、税理士に相談した上で生前贈与の内容を検討するようにしてください。
- (1)負担付贈与に該当すると時価評価になるので不利
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「負担付贈与」に該当すると、贈与財産が時価評価されてしまいます。
すると、相続する場合よりも評価額が高くなりやすいため、納税者にとっては不利です。
アパートの贈与と同時にアパートローンも引き継ぐと「負担付贈与」になるので、ローンの返済が終わっているアパートを贈与するケースが多いです。
また、入居者から預かった敷金も引き継ぐと「負担付贈与」になるため、敷金と同額の現金も同時に贈与することで負担付贈与にならないように対策することがあります。 - (2)入居者が入れ替わっていると自用地評価になるので不利
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アパートの敷地を相続する場合、通常は「貸家建付地」として評価額を低く抑えることができます。
ところが、建物だけを生前贈与し、相続時点で建物の借主が入れ替わっていると土地は「自用地評価」になってしまうので納税者にとって不利です。
なお、一括借り上げなどで借主が入れ替わらなければ貸家建付地評価になります。
3.土地や建物を生前贈与するメリット
土地や建物を生前贈与するメリットについて見ていきます。
3-1.不動産は時価よりも評価額を下げやすい
現金を贈与するときは額面通りの評価ですが、土地や建物を生前贈与すると、評価額が時価よりも低くなるのが通常です。
相続税や贈与税は財産が多ければ多いほど納税額が増えるため、評価額を抑えることで節税になります。
不動産の「評価額」が時価よりも低くなる理由は、税務署が評価方法を次のように定めているからです。
- (1)建物の評価方法
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まず建物については、「固定資産税評価額」がそのまま贈与税の評価額になります。
固定資産税評価額は新築時でも建築費の5~6割程度の評価になっており、築年数の経過に伴って下がっていきます。
さらに、アパートなどの貸家の場合は「固定資産評価額×70%×賃貸割合」に減額されます。(※賃貸割合=貸している部分の面積の割合) - (2)土地の評価方法
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土地は「相続税路線価」をもとにして評価されます。
「相続税路線価」は相続税・贈与税の計算で使われるもので、道路ごとに単価が決められており、その道路に面した土地の評価を決めるのに使います。
「相続税路線価」は時価の8割程度になっています。
その上で、アパートの敷地の場合は路線価評価からさらに減額して評価されます。
3-2.子が土地を有効活用できる
土地を生前贈与すれば、子供が土地を自由に活用することができます。
親が活用方法や建て替えを検討するのが大変なときに若い世代に任せれば、トレンドを把握して積極的な賃貸経営を行ってくれることも期待できます。
また、相続時に突然アパートを引き継ぐのではなく、早いうちから子供が賃貸経営のノウハウなどを身に付けられるのも利点です。
ただし、生前贈与しなくても親の土地を子供が活用することは可能です。
親の土地に子供の名義でアパート等を建てて土地活用をすることも可能なので、本当に生前贈与するのが有利なのかどうか検討する必要があります。
3-3.贈与後の家賃収入を子供が受け取れる
土地を贈与して活用してもらったり、アパートを建ててから贈与すれば、家賃収入を子供が受け取ることができます。
家賃収入を子供が受け取れば、親の相続資産がそれ以上膨らみませんし、相続税の納税資金の準備もできます。
相続税は原則として現金で納付することになっており、納税資金が足りなくなって不動産を売却しなければならないケースも多いため、納税資金対策は重要です。
また、所得分散効果も見込めます。
所得税は所得が多くなるほど税率が高くなる累進課税なので、親の所得が多い場合には、親だけが収入を受け取るよりも親子で収入を分散したほうが全体の納税額が下げられます。
3-4.多額の財産を短期間に渡せる
総資産が多い場合には、暦年贈与で少しずつ贈与するのでは相続対策が追い付きません。
土地や建物などの大きな財産を一度に渡すことで、効果的な相続対策が可能です。
3-5.不動産経営の知識も生前に伝えることができる
親世代が長年にわたって不動産経営を継続していて、ノウハウや知識をたくわえているケースも多いと思います。
相続の場合は、親がアパート経営のノウハウなどを伝えるチャンスがありません。
生前贈与ならば、親が時間をかけてアパート経営の知識を次の世代に伝えたり、子供が困ったときに相談できるというメリットがあります。
4.土地や建物を生前贈与するデメリット
次に、土地や建物を生前贈与するデメリットを見ていきます。
4-1.税金面で有利になるとは限らない
贈与の内容によっては、贈与しないで相続を迎える場合よりも税金面で不利になることがあります。
節税を狙って生前贈与するなら、税理士に相談して、贈与税と相続税の両方をシミュレーションしてから判断することが大切です。
具体的に、次のような理由で生前贈与が不利になる可能性があります。
- 相続時精算課税で贈与された土地には「小規模宅地等の特例」が使えない。
- 負担付贈与の場合は時価評価になるので、相続する場合よりも評価額が上がってしまう。
4-2.生前贈与のコストがかかる
生前贈与では3つのコストがあります。
- (1)不動産取得税
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生前贈与では、贈与された人に不動産取得税がかかります。
相続で不動産を取得した場合には、不動産取得税はかかりません。 - (2)登記費用が割高
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登記の名義を変更するときの登録免許税が割高です。
生前贈与では固定資産税評価額の2%、相続なら0.4%です。 - (3)税理士の報酬
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生前贈与をするかどうか検討したり、実際にどの財産をどんなタイミングで贈与するのが有利か相談するための税理士報酬を見込んでおく必要があります。
税理士に相談しないで生前贈与をすると税金上で不利になってしまうリスクがあります。
5.土地や建物を生前贈与する流れ
土地や建物を生前贈与するための具体的な流れを見ていきます。
5-1.贈与契約書を作成する
土地や建物を贈与する際には、贈与契約書を作成します。
法律上は口頭でも贈与できますが、登記の手続きの際に贈与契約書が必要になります。
また、贈与の事実を第三者へ証明するためにも、贈与契約書を残したほうが安心です。
5-2.土地・建物の名義を変更する
土地や建物の登記簿上の名義を変更します。
登記手続きは司法書士に依頼するのが一般的です。
5-3.贈与税を申告する
贈与の翌年の3月15日までに贈与税を申告します。
贈与された人が申告を行い、贈与税が発生する場合に納税をするのも贈与された人です。
5-4.不動産取得税を納税する
不動産を贈与された人は、不動産取得税を納税する必要があります。
贈与の数ヶ月後に、不動産取得税の納付書が都道府県税事務所から送付されます。
6.生前贈与で失敗しないためのポイント
生前贈与の手続きをしてしまったあとで後悔しないためのポイントは次のとおりです。
- 他の相続人とのバランスを考える
- 専門家に相談した上で生前贈与する
6-1.他の相続人とのバランスを考える
複数の相続予定者がいる場合に生前贈与を行うときには、相続人間のバランスをとることが大切です。
生前贈与を受けない子が不公平に感じないよう、別の財産を贈与するか、相続させる予定であることを知らせておくことも必要でしょう。
親としては公平に分けたい、あるいは同居する子供に手厚くしたいといった様々な思いがあるかもしれませんが、事前に話し合いがないとトラブルになる可能性があります。
相続や贈与によって家族の関係が悪くなってしまうケースは珍しくないので注意したいところです。
6-2.専門家に相談した上で生前贈与する
生前贈与の手続き自体は、それほど難しくありません。
でも、節税対策が逆効果にならないよう、あらかじめ税理士に相談して試算してもらうことをおすすめします。
「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の選択や、どの資産をどのようなタイミングで贈与するか税理士にアドバイスを求めてください。
税理士にも得意分野があるので、特に相続分野に注力している税理士を探すとよいでしょう。
まだ十分に活用していない土地なら、活用方法も合わせて慎重に検討する必要があります。
「土地を贈与して子供に活用法を決めてもらう」「親がアパートを建ててから贈与する」「贈与せずに親名義の土地に子供の名義でアパートを建てる」など、様々な方針が考えられます。
不動産経営をするなら、法人化による相続税対策も検討するとよいでしょう。
ただし、税理士は不動産の専門家ではないので、土地活用の内容を具体的にアドバイスできるとは限りません。
節税できても赤字になって資産を減らす結果にならないように、不動産に詳しい専門家へ相談しておくことも大切です。
「HOME4U(ホームフォーユー)土地活用」では、アパート経営や駐車場経営などの確かな実績のある企業が揃っており、複数の企業から提案を受けることができます。
それぞれ異なる強みを持つ企業に、相続対策や生前贈与に適した活用方法を聞いてみてください。
節税効果や収益性などを比較検討した上で、財産を守るための一番良い方法を見つけていただきたいと思います。
まとめ
それではおさらいです。
- 「暦年贈与」とは、毎年110万円の基礎控除を活用して生前贈与するものですが、亡くなる直前の駆け込み贈与は非課税にならないため注意が必要です。
- 「相続時精算課税制度」を使うと、累計2,500万円まで贈与税が課税されませんが、相続発生時には贈与した財産を加えて計算するので、節税にはつながりません。
- 「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」は併用できず、「相続時精算課税制度」は取り消しできないので慎重に検討する必要があります。
土地を生前贈与するときには、どんなタイミングでどの財産を贈与するのが有利なのか、税理士に相談してから実行することをお勧めします。
土地を生前贈与して子供に自由に活用してもらう方法もありますが、親がアパートを建ててから生前贈与する方法もあります。
不動産を生前贈与すれば、様々なメリットもありますが、贈与の内容によっては税金面で不利になってしまうこともあります。
生前贈与で後悔しないためには、家族と十分に話し合ったり、専門家に相談した上で慎重にご判断ください。
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