アパートのリノベーション判断基準は?リフォーム・建て替えと一緒に比較
経営中のアパートの築年数が古くなってくると、入居者が決まりにくくなり、アパートの経営状態にも影響が出てくるようになります。リフォームや建て替えを検討しているうちに、リノベーションという方法があることを知り、アパートの状態をよくするために検討している方もいらっしゃるかと思います。
本記事では、リノベーションやリフォーム、建て替えを決める判断基準と、それぞれのメリット・デメリットを簡潔にまとめています。経営中のアパートの状況改善のために、何が最適なのかをリノベーションも含めて選択できるようにしています。
なお、すでに建て替えを検討されている方は、以下のボタンから、建築会社・ハウスメーカーから費用・収益シミュレーションを含んだ「建て替えプラン」を取り寄せることができます。ぜひご活用ください。
この記事の内容
1.アパートのリノベーション・リフォーム・建て替えを決める判断基準
本章では、ご所有のアパート経営状態の改善のために、建物に手を加えるタイミングと、手を加える際には、どの方法を選ぶべきかの判断基準をまとめています。
アパート経営の改善のために建物に手を加える方法には、大きく分けると以下の3つの選択肢があります。
- 1.リノベーション
-
建物の価値を、従前の状態よりも良くして、建物の資産価値を上げる工事のことです。公式なリノベーションの定義はないのですが、「設計」が必要な工事は、リノベーションになります。基本的に、柱や梁を露出させた状態にして必要な変更をしていきます。水回りの変更、間取り変更などがリノベーションに相当します。
- 2.リフォーム
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経年によって機能や見た目が劣化したものを直すことが目的の工事です。例えば、ボロボロになったキッチンやトイレなどの住宅設備を新品に交換することなどを指します。交換した部分は新しくはなりますが、リノベーション同様、建物の躯体には手を加えません。3つの中では、もっともコストを抑えた工事になります。
- 3.建て替え
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今ある建物を、基礎から取り壊して、新たにアパートを建築することを指します。ただし、すべての住宅が建て替え可能ではなく、現行の建築基準法で決められたルールに則っている必要があります。アパートの建て替えも視野に入れている場合は、はじめに、アパートの土地に再度同規模で建てられるかどうかのチェックをしておく必要があります。
どの方法を採用しても、アパートの集客率を上げて、建物の持ちをよくする効果があります。だだし、どの場合でも旧耐震の建物と、耐震に不安がある場合は、建て替えを第一に検討すべきです。
以下の表は、3つの選択肢それぞれの、主な目的などの特徴の違いを表にしたものです。
目的と判断基準 | リノベーション | リフォーム | 建て替え |
---|---|---|---|
工事内容 | 間取り変更・インフラ交換 | 必要な部分のみ改修 | 解体後に新築を建てる |
費用 | 坪単価と範囲に準じる | 必要箇所のみの費用 | 坪単価に準じる |
その他諸経費 | なし | なし | 解体費や税金がある> |
家族にのこす | △ | × | 〇 |
築年数 | 築20年~ | 築10年~ | 築20年~ |
工期※ | 1~3ヶ月 | 1ヶ月前後 | 4~6ヶ月 |
※標準的な工事をした場合の工期目安です。実際の工期は建築プランなどで確認してください。
1-1.リノベーションの判断基準
工事内容 | 費用 | その他諸経費 | 家族にのこす | 築年数 | 工期 |
---|---|---|---|---|---|
間取り変更・インフラ交換 | 坪単価と範囲による | なし | △ | 築20年~ | 1~3ヶ月 |
- 工事内容
-
間取りの変更、配管や配線などのインフラ交換を含んだ工事になります。公式な意味でのリノベーションの定義はないのですが、設計が必要なタイプの工事は、リノベーションの扱いになります。
多くの場合、工事が必要な部分の壁を取り除き、梁や柱だけにした状態(スケルトン状態)にして行います。建物すべてをスケルトンにして行うことを「フルスケルトン」、そのようなリノベーションを「フルリノベーション」と言い、かなり大がかりな工事となります。
ただし、リノベーションでは梁と柱の位置を変えることはできませんので、建物の構造によっては希望する間取りにできないケースもあります。 現在のアパートに、大きな変更を希望している場合は、建て替えも視野に入れた建築プランとも比較してみることをおすすめします。
- 費用
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建物にどの範囲まで手を加えるかによって費用が変わりますが、基本的にはアパート建築の坪単価に準じます。以下の表は、構造による坪単価の目安額です。アパートの場合は木造か鉄骨、マンションの場合は重量鉄骨や鉄筋コンクリート造も含まれます。
構造 坪単価目安 木造 55~80万円 軽量鉄骨 80~100万円 重量鉄骨 90~120万円 鉄筋コンクリート造 90~120万円 しかし、実際にいくらになるのかは、不動産のプロフェッショナルによる現地調査と、建物をどこまで修正する必要があるかなど、リノベーションをする範囲が確定すると、坪単価もハッキリしてきます。
リノベーションを検討していても、建て替えの方がアパート経営の利益が大きいと担当者が判断した場合は、リノベーションと建て替え両方の建築プランの提案をされることもあります。
- その他諸経費
-
今ある建物に対して手を加える工事になりますので、新規に不動産取得のための税金などが発生しません。
- 家族にのこす
-
リノベーションをする前提でも、相続の予定がある場合は、リノベーションと建て替えの両方を比較検討してください。基本的には、アパートのリノベーションにかかった費用はマイナスの財産となり、同時に、建物の評価額が変わらないため、リノベーションは相続税対策に有効な方法のひとつとされています。
しかし、2013年(平成25年)にされた法改正により、リノベーションを含む増改築をした建物の固定資産税額が、相続発生時に再評価されるケースが出てきています。特に、大がかりなリノベーションをした場合には、再評価により課税額が上乗せされることもあるため、予定通りの相続税対策にならない可能性もあります。
工事のためにかかる費用の問題以外にも、相続税対策として効果があるかという視点も含め、スタート前に、総合的に判断しておく必要があります。
またこれらの比較には、不動産のプロフェッショナルが出した数字が非常に参考になりますので、複数のハウスメーカーに建築プランを請求し、建て替えとリノベーションの両方から比較をしてください。
【参照:国税庁 増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価】 - 築年数
-
建物の一部であっても、全体であっても、施工部分を梁と柱だけにする必要があるため、費用は大きくなります。そのため、建物全体の経年劣化が進んだ築20年以上で検討するのが一般的です。建物が古くて耐震に不安がある、または旧耐震の建物の場合は、建て替えにより最新の耐震設計のアパートにすることをおすすめします。
- 工期
-
水回りなどの部分的なリノベーションをした場合、1~3ヶ月くらいが工期の目安になります。ただし、水回りの位置の変更などの間取り変更が加わると、さらに工期が増える可能性があります。
フルリノベーションの場合は、アパートが構造と梁だけの状態になりますので、必要な工期は3~6ヶ月となり、建て替えとほぼ同じ工期になります。実際の工期に関しては、現地に調査にきてもらう訪問査定をすると、工事内容に合わせた工期の目安がハッキリしてきます。
1-2.リフォームにする判断基準
工事内容 | 費用 | その他諸経費 | 家族にのこす | 築年数 | 工期 |
---|---|---|---|---|---|
必要な部分のみ | 必要箇所のみの費用 | なし | × | 築10年~ | 1ヶ月前後 |
- 工事内容
-
建物の基礎部分には手を加えず、部分的に修理や変更を行い、見た目や機能を新築時の状態に近づける工事のことです。リフォームをするところが多いと、大がかりな工事をすることもありますが、「設計」というプロセスがない場合は、リフォームとよびます。
例えば、水回りならバスルームだけ、キッチンだけ、外構ならば壁面だけ、屋根だけなど、個別の場所の経年劣化などに対して、その住宅設備が新品だった状態に戻すことが目的です。構造に手を加えないため、基本的に間取りを変えること、部屋数を増やすことはできません。
- 費用
-
必要な箇所のみの費用になります。
- その他諸経費
-
今ある建物に手を加えるだけですので、税金などの諸費用は発生しません。
- 家族にのこす
-
経営中のアパートを相続することはできますが、アパートの劣化が進んでいる状態で引き継ぐ場合、子世代が経営を継続していくためには、将来、建て替えや大がかりなリノベーションが必要となり、子世代に莫大な費用負担が発生します。
アパートの相続をする予定であれば、建て替えを前提にした建築プランと相続の計画も、あわせて比較検討しておく必要があります。
- 築年数
-
リフォームの必要があればいつでもできますが、一般的には、室内設備の耐用年数が終了しはじめる築10年前後がひとつの目安となります。建物が古くて耐震に不安がある、または旧耐震の建物の場合は、リフォームによる耐震補強よりも、最新の耐震設計のアパートにできる建て替えも検討します。
- 工期
-
一か所の工事が終わるまでが工期になりますので、非常に簡単なもので数日、長いと1ヶ月前後になります。工期は、施工会社の打ち合わせ時に相談できます。
1-3.建て替えの判断基準
工事内容 | 費用 | その他諸経費 | 家族にのこす | 築年数 | 工期 |
---|---|---|---|---|---|
解体して新築建築 | 坪単価に準じる | 解体費や税金 | 〇 | 築20年~ | 4~6ヶ月 |
- 工事内容
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今建っているアパートを全部解体して更地にし、そこにゼロから新築のアパートを建てます。ゼロから設計をやり直せるので、まったく新しい間取りや部屋数にすることができます。3つの中では、最もオーナーの理想に近いアパートにすることができます。
- 費用
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新しく建てる建物の広さ・高さ・構造によって値段が変わります。アパートの場合は木造か鉄骨、マンションの場合は鉄骨、重量鉄骨、鉄筋コンクリート造まで含まれます。構造別の坪単価目安は以下の通りです。
構造 坪単価目安 木造 55~80万円 軽量鉄骨 80~100万円 重量鉄骨 90~120万円 鉄筋コンクリート造 90~120万円 ただし、新築の場合は、今あるアパートを解体する必要がありますので、別途、取り壊し費用が発生します。また、アパートに入居者がいる場合は、退去または仮住まいのための費用負担が発生することがあります。
- その他諸経費
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新規の建物になりますので、新築のアパートに対して不動産取得税、固定資産税、都市計画税、登録免許税が発生します。不動産取得税に関しては、2024年(令和6年)3月31日まで軽減税率が適用できます。
【参照:東京都 不動産取得税】 - 家族にのこす
-
相続税の対策・土地家屋の継承方法として、アパートの建て替えは、リノベーション・リフォーム・建て替えの3つの選択肢の中では、最も高い効果が期待できます。
相続税対策としては、アパート建築費は全額、マイナスの資産として課税対象額から減額されます。また、築年数の浅いアパートは入居率も高く、賃料の発生する不動産を相続財産としてのこせます。
不動産を子孫に継承するという点においても、建て替えたアパートの耐用年数が長い状態で引き継ぐことができますので、子世代の負担が少なく済みます。
- 築年数
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建物のあちこちに劣化がみられるようになる、築20年頃から検討するのが一般的です。建物が古い、または旧耐震の建物の場合は、建て替えにより最新の耐震設計のアパートにすることをおすすめします。
- 工期
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建て替えるアパートの大きさや構造などにもよりますが、一般的に4~6ヶ月程度の工期がかかります。完成(竣工)してからの入居者募集となりますので、取り壊してアパート経営を再開するまでには、半年以上かかるスケジュールが必要です。
実際の工期は、訪問査定をしてもらった後の建築プランで詳細がわかります。また、希望する完成期日に合わせて計画を進めることもできます。
現在経営中のアパートに手を加え、より良い経営状態にするためには、リノベーション以外にも、建て替えとリフォームの計3つの選択肢があります。空室が多い状態であれば、入居率の高い経営にするために、リノベーションまたは建て替えを検討する必要があるでしょう。
どの方法が今のアパート経営によりプラスになるのかは、現地の土地建物と周辺環境も含め、不動産のプロフェッショナルによる的確な判断が必要になります。
NTTデータグループの運営する「HOME4U 土地活用」の一括プラン請求では、一度の入力で最大10社までの建て替えプランをまとめて請求できます。
費用はどのくらいかかるのか、家賃はいくらに設定できるのか、工期はどのくらいかかるのか、どんな間取りにすべきかなど、今あるアパートをどうすべきかに必要な情報を建築会社から取り寄せることができます。複数のプランを比較してみていくうちに、「これはいい!」と思えるプランやハウスメーカーが見つかります。
2.リノベーション・リフォーム・建て替えのメリット・デメリット比較表
本章では、前章で説明した、リノベーション・リフォーム・建て替えのメリット・デメリットを表で比較し、今のアパート建物と経営の問題を改善するためには、どの選択が最善なのかを選びやすくまとめています。
リノベーション | リフォーム | 建て替え | |
---|---|---|---|
メリット |
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デメリット |
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結論からお伝えすると、コスパを重視するのであればリノベーションかリフォーム、外観の印象まですべて変えて、しっかり利益が出るアパート経営を望むのであれば、建て替えがおすすめです。
2-1.リノベーションのメリット・デメリット
リノベーションは、必要な箇所だけを新品同様にできるのがメリットです。手をかける必要がある箇所だけの費用で済みますので、多少はコストを抑えることができます。しかし建物全体をリノベーションするフルリノベーションの場合は、工期も費用は建て替えと変わらないことがありますので、大がかりなリノベーションをする予定の場合は、建て替えとの比較をして、どちらがより費用対効果が良いかを比較検討してみる必要があります。
リノベーションにおける最大のデメリットは、予定していた箇所を壊してみたら、想定とは違うケースがあることです。例えば、壁を取り払ってみたら雨で柱が腐っていた、シロアリ被害があったなど、梁や柱のなどの構造の強度に問題があった場合などです。
その場合には、当初に計画していたリノベーション計画をはじめから練り直す必要があり、予定よりも工期が長引き、費用が加算され、最悪の場合はリノベーション不可となる可能性もあります。
対策としては、訪問査定の段階で、目視できる主要な柱・壁・構造から、ある程度の劣化状態などが推測できますので、不動産のプロフェッショナルによる訪問査定を、複数件しておくことがデメリットを回避する最善の方法になります。
劣化がひどいという判断があった場合には、建て替えプランも作ってもらい、リノベーションと比較しながら、慎重に判断するようにしてください。
また、基本的にリノベーションは建物の内側に対する工事ですので、フルリノベーションをしたとき以外は、外見が変わらないため、入居希望者が中に入ってみないと手をかけたことが伝わりにくいという点もデメリットです。
これは、入居者募集をする際に、「リノベーション物件」として内見案内を推してもらうことや、ネット情報で数多くの画像をアップすることで対策できます。
2-2.リフォームのメリット・デメリット
工期・コストともに最も少なく、負担が軽いのが最大のメリットです。また、必要な箇所だけでよいため、入居中でも空室でも、必要な部分に、必要なことを個別に工事ができる点もメリットです。
リノベーション同様、外観に手を加えることがないので、外からはリフォームされていることが伝わりにくいというデメリットがあります。これらは、入居者募集をする不動産会社に、「リフォーム済」とアピールしてもらうことや、リフォーム写真を入居案内ページにたくさん載せてもらうことで、ある程度対策ができます。
2-3.建て替えのメリット・デメリット
今あるアパートを壊して新規にアパートを建てるので、今ある建物としての問題はすべてクリアできるのが最大のメリットです。新築アパートですので入居率も高く、家賃設定が高くても入居者が決まりやすくなります。
デメリットとしては、新築物件を建てることになりますので、費用が大きくなります。ただし、アパートローンは入居者家賃が返済原資になりますので、新築アパートは入居者も付きやすいことから、アパート経営計画に無理がなければ、金融機関は前向きに検討する傾向にあります。
また、土地条件に沿って建て替えをしますので、旧建築基準法で建てられた築年数の古いアパートの場合は、今あるアパートよりも建物の大きさや高さに制限がかかる、または建て替え不可である可能性があります。このような場合の対策としては、フルリノベーションを選択することになります。
新規に建物を取得するため、各種税金が発生しますが、これらの税金は確定申告時に経費として計上できます。3つの選択肢の中では最も工期が長く、フルリノベーションをした場合とほぼ同じくらいの長さになります。
どの方法か最善なのかを迷ったとき、アパート経営で最優先すべきなのは、経営状態の改善です。リノベーションはリフォームよりも建物に十分な手をかけられる上に、アパートを建て替えるよりも安く済みます。
しかし、リノベーションをすることで、本当に空室リスクの軽減につながるのか、どのくらいの賃料値上げが見込めるのかなどを含め、不動産のプロフェッショナルによる綿密な査定結果も参考にしながら、建築プランを総合的に比較する必要があります。
3.アパートのリノベーションの注意点6つ
本章では、アパートのリノベーションを決める前に、知っておいた方が良い重大な注意点を6つにまとめています。
- 予想より費用がかかる場合も
- 外観を変える際は注意
- エリア条件が悪ければ空室率は変わらない
- リノベーションでも変えにくい「水回り」
- リノベーションでも変えられない「構造」
- プロフェッショナルでも壊してみないとわからないことがある
3-1.予想より費用がかかる場合も
コストが抑えられるとはいうものの、梁と柱だけを残して水回りの配管全体をやり直す、1~2部屋をつなげて広いリビングに変えるなど、リノベーション工事には、設計のし直しが必要な、複雑さのある作業工程が必要ですので、それなりの金額がかかります。
1章でも解説した通り、リノベーション費用は構造と範囲の広さによりますので、ケースによってはシンプルな建て替えができるほどの大きな金額になることもあります。
リノベーション=建て替えより安い、ということではありませんので、必ず、複数のパターンで建築プランを請求し、その中で、アパート経営として最も価値がある投資はどの方法なのか、という視点で考える必要があります。
3-2.外観を変える際は注意
リノベーションで施工する場所の定義はないのですが、不動産業界の現状に合わせると、リノベーションとは主に、梁や柱を残すタイプの室内工事を指します。
一方、外壁や屋根などの外観を左右するタイプの工事は、「エクステリア工事」と呼ばれます。
外観も変えたいとなると、リノベーション以外に「エクステリア工事」もオーダーする必要があり、追加料金が発生し、金額も大きくなります。
また、アパート建物全体を梁と柱だけ残して工事をするフルリノベーションの場合も、屋根と外壁もすべて取りますので、見た目を変化させることができます。
この場合は、新しい外壁と壁の内側の断熱処理、屋根と塗装代などの費用が含まれた工事代金となり、結果的には、建て替え費用と大差がない金額になります。
3-3.エリア条件が悪ければ空室率は変わらない
アパート経営で最も経営状態に打撃を与えるのが「空室」ですが、空室になっている理由を正確に把握していないと、リノベーションをしても経営状態が変わらない可能性があります。
アパート経営がうまくいかない理由にはいろいろありますが、よくある理由としては、経年劣化に対して家賃が高めであるか、エリアニーズに合っていないというのがあります。前者の場合は、建物に手を加えるか、家賃を下げて対処ができますが、後者の場合は、そもそも賃貸に出している部屋のタイプが、周辺エリアにいる入居候補者の探しているものに合っていないために起きる空室です。
そのままでは、家賃を下げても、リフォームでキッチンを最新のものに入れ替えても、リノベーションで今風の間取りにしても、入居者が付かない可能性があります。
アパートがあるエリアの不動産会社に直接聞けばある程度のことは教えてもらえますが、不動産情報の一括査定サイトを利用して、複数の不動産会社に建築プランを作成する際に、アパート経営のためのエリア調査をしてもらう方法があります。
経営しているアパートの周辺エリアで満室経営をしているアパートや、マンションのターゲット層をリサーチしてもらうことで、経営中のアパートの何を変えればよいのかなどの、適切な対処方法が見つかる可能性があります。
また、どのような場合でも、住宅としてのニーズがない場所でアパート経営をしても空室率の改善は難しいので、住宅以外の土地活用も検討しておく必要があります。
3-4.リノベーションでも変えにくい「水回り」
リノベーションによってアパートの何もかもが理想通りに変えられるわけではなく、土地が持つ条件や、梁や柱などの構造によって制限が付くことがあります。水回りの場合は、元の配管位置がどこにあるかによって、新しいバスやキッチンの位置にするために、追加工事が必要になるケースがあります。
アパートのような集合住宅は共通のパイプから複数の部屋に配管をするため、建築後に各部屋の配管振り分け位置を変えることができません。仮に、このパイプに、水はけをよくするための勾配があった場合、リノベーションで水回りを別の場所に移動させるためには、新しい位置で同じように水はけをよくするために、新しく傾斜をつける追加工事が必要になります。
特に、床下ははがしてみないとわからない部分があり、工事が始まってから追加内容がわかるケースが多い傾向にあります。このような場合、計画変更のためにプランを練り直す、工期が延びる、新規の材料が必要になるなど、追加工事・追加資材・追加の人材が必要になるため、想定よりもコストがかかる可能性があります。
このようなことから、リノベーションでスケルトン状態にすれば、なんでもできるのではなく、やろうと思えばできても、コストが余分にかかるというのが現実と言えます。建て替えであれば、すべてを取り壊した後に新規に配管をしますので、前の配管位置などの影響を心配する必要がありません。
3-5.リノベーションでも変えられない「構造」
リノベーションでは、構造には手を加えないことになっていますので、間取り変更やレイアウト変更をする場合でも、今ある梁と柱がある状態でできることしか変えられません。
多くの集合住宅は、柱と梁で建物全体を支えています。リノベーションをするときに、梁と柱だけを残すというのは、梁と柱が構造として建物を支えているから残すのです。
そのため、間取りを新しくする場合には、この梁と柱を活かして作り直すことになるため、建て替えと比較すると、設計の自由度が低くなります。
3-6.プロフェッショナルでも壊してみないとわからないことがある
リノベーション工事を開始して、壁や床を取り払ってみたら、持っていた建物の図面と全然違っていた、ということがあります。
これは、そのアパートを建てていた時に、現場の事情で図面通りにいかない場合には、少し設計図とは違う工事をすることがあるためです。そして、その情報が設計士に届かないままだと、図面の更新が行われないままで完成することがあります。
図面にもいろいろなタイプがあり、電気配線や配管の通り道までの詳細な内容が書いてあるものもあれば、構造などの重要な図面しか存在しないこともあります。これらは施工をした会社の性格によるものですが、施主にとっては見てもよくわからないものなので、たいていの場合は、渡されたものをそのまま保管しているだけになります。また、古い建物の場合は、紛失などにより、図面自体が手元にないケースもあります。
繰り返し増改築などが行われてきた建物も、元の図面と今のアパートの状態が、全然違ってしまいます。このように、古い建物のリノベーションは、壁・床下・天井などを開けてみないと、実際にどうなっているのかがわからない部分があり、プロフェッショナルでも図面だけでは、判断できないことがあります。
万が一、リノベーション工事がスタートしてから、図面と実際の状態が違うことが判明した場合は、そこで一旦、工事を停止します。そのうえで、施工会社に内容確認をしてもらい、ケースによっては建築計画を最初からやり直すこともあります。
このように、経年した建物へのリノベーションは、工事を始めてみるまでは、思った通りに行くかはわからない部分があることを理解しておく必要があります。
アパートやマンション、普通の住宅も含め、不動産物件というのは、そもそも、リノベーション前提で建てられているわけではありません。当時に建物を作った施工会社も、数十年後に、壁を取り払って二間続きのリビングにすることや、お風呂の位置を西から東へ移動させる可能性があることなどを想定して設計しているわけではありません。
仮に、図面と現実にズレがあったとしても、住むためには不都合はなく、リノベーション工事をするときになってはじめて、図面の違いが問題となるのです。アパートの経営状態改善のために、建物のリノベーションを検討している方は、このような可能性があることを想定に入れたうえで、建て替えも同時に視野に入れながら、慎重に検討してください。
建て替えを含めた建築プランの比較には、複数のハウスメーカーからの建築プランが、一度の申し込みで入手できるNTTデータグループが運営する「HOME4U 土地活用」の一括プラン請求をご活用ください。
4.アパートのリノベーションを成功させる4大ポイント
本章では、アパートのリノベーションを成功させるために大切な、4つのポイントをまとめています。
- エリアニーズにあったリノベーションを行う
- 「空室対策=リノベーション」ではない
- 工期を守る会社を選ぶ
- アパートのリノベーション実績がある会社から探す
4-1.エリアニーズにあったことをする
アパート経営がうまくいくためには、周辺エリアのニーズにあったリノベーションをする必要があります。例えば、学生が多ければワンルーム、独身の社会人が多ければ広めワンルーム~1LDKなど、そのエリアで大きく需要のある間取りにします。
そのうえで、人気のあるデザインや内装、そこに住む方が求めている住宅設備機能などを想定し、周辺のライバル物件に勝てるような、入居者の心をつかめる部屋づくりのアイデアが必要になります。
現在、ある程度の期間、入居者募集をして、いくつかの対策をしてみても入居者が決まりにくい部屋がある場合は、アパートの間取りがエリアニーズに合っていない可能性があります。
不動産会社やハウスメーカーとよく相談の上、エリアニーズにあった部屋に変えるためのプランを出してもらい、コスト・稼働率・返済計画などのさまざまな観点からアパート経営を見直す必要があります。
リノベーションは1室からでもできますので、今ある空室を埋めるだけで、アパートの経営状態が改善するのであれば、まずはエリアニーズにあった部屋に変更してみることも可能です。
4-2.「空室対策=リノベーション」ではない
「空室対策=リノベーション」ではなく、まずは経営中のアパートに空室ができる理由をよく考え、必要なことを必要なだけするようにします。
これらの判断は、1人でするよりも、不動産会社、ハウスメーカーや工務店など、アパート建築とアパート経営に知見のある不動産のプロフェッショナルにも相談をし、適切なアドバイスをもらうようにしてください。
比較的コストのかかるリノベーションよりも、古くなったキッチンやお風呂周りなどを新しくする低コストなリフォームだけでも、空室リスクが改善することもあります。
一方、リノベーションを検討したい場合、梁や柱だけを残すタイプの工事ですので、複数の部屋に同じような工事を同時に施行できる方が、コストを抑えた効率の良い工事ができます。その際には、総工費を建て替えと検討して、アパート経営として、費用対効果の高い方を選ぶようにします。
4-3.工期を守る会社を選ぶ
リノベーションの工期を守ってくれる会社を選びます。アパート経営では、入居者のいない部屋からの賃料は0円ですので、なるべく早く新しい入居者についてもらう必要があります。
リノベーション工事を行う際には、完成したらすぐに入居者募集が開始できるように、募集活動をしてくれる不動産会社の担当者に連絡をしておきます。工期を守ってくれる施工会社であれば、無収入の状態を可能な限り短くすることができます。
4-4.アパートのリノベーション実績がある会社から探す
アパートのリノベーションの実績がある会社に依頼をします。会社によってはリフォームとリノベーションの住み分けが曖昧なところもあり、こちらがリノベーションのつもりでお願いしても、内容がリフォームであることがあります。
リノベーションは室内や建物の中を、新たに設計しなおしてもらう工程がありますので、設計ができる人が社内に必要です。各社の実績は、ホームページの会社案内などにある「弊社実績」などに記載があります。数多くのリノベーション実績がある会社では、ビフォーアフターの写真も掲載がありますので、参考になります。
リノベーションをする会社には工務店・ハウスメーカー・総合建設会社などがありますが、それらの会社に直接依頼をする前に、不動産に関した専門家に相談をすることもできます。「HOME4U 土地活用の専門相談サービス」では、専門家への電話相談もできます。
各社の提案を比較検討する前に、本当にアパート経営を改善できる方法がリノベーション工事で良いのか、費用対効果を考えれば、本当は建て替えが妥当なのではないかなどの不安を、第三者的な立場で答えてくれます。
アパートのリノベーションの特徴には以下のようなものがあります。
- 間取り変更
- インフラ交換
- 資産価値が上がる変更点がある
リノベーションの特徴のほか、リフォームや建て替えとの違いについては「アパートのリノベーション・リフォーム・建て替えを決める判断基準」でご確認ください。
アパートがリノベーション妥当と判断する基準は、以下のような意向があるとき、状況のときです。
- 間取りを変更したい
- 資産価値を上げたい
- 費用がかかっても構わない
- アパートで相続税対策を考えている
- 空室率が高いため工期が多少長くてもよい
- 築20年ほど経過している
リノベーション、リフォーム、建て替えの判断基準について「アパートのリノベーション・リフォーム・建て替えを決める判断基準」で詳しく解説しています。
アパートのリノベーションには以下のようなメリットがあります。
- 室内を新品同様にできる
- 建て替えよりは低コスト
- 予算に合わせてできる
一方デメリットには以下のようなものが挙げられます。
- 改修箇所によって費用がかさむ
- 工期が長いケースもある
詳しくは「リノベーション・リフォーム・建て替えのメリット・デメリット比較表」でご確認ください。
アパートのリノベーションをする際の注意点は以下の通りです。
- 費用がかかる
- エリア条件が悪ければ空室率は変わらない
- リノベーションで変更できないところがある
- プロフェッショナルでも壊してみないとわからないことがある
それぞれの注意点は「アパートのリノベーションの注意点6つ」をご一読ください。
電話でもプラン請求をお受けします。「個人情報の取り扱いについて」に同意の上、お電話ください。