この記事の執筆者
この記事の執筆者
太田垣 章子
所属
職業 司法書士・賃貸不動産経営管理士
家主側の訴訟代理人として、延べ3000件近くの悪質賃借人明け渡しの訴訟手続きを受託してきた、賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
住まいのトラブル解決だけでなく、終活・相続サポートにも従事。実務だけでなく、講演や執筆等で積極的に発信もしている。
通称:あやちゃん先生
前回「入居審査」の大切さをお伝えしましたが、大家さんは入居者側の情報をアップデートしていますか?
賃貸借契約は、売買のようなその瞬間で終わるものではありません。契約してからがスタート。定期建物賃貸借契約でない限り、そこから継続していくものです。その契約期間中に、借りる側の状況が変わっていくのは当然のこと。家族が増えたり減ったり、転職したり、病気になったり、緊急連絡先の電話番号が変わったり……。その変化をスルーしていると、いざという時に適切な対応ができません。
関東の場合には「更新料」という慣習があるので、更新ごとに契約書を巻き直すのが基本です。ただこの場合でも入居者の情報を確認しているケースは、少ないのではないでしょうか。ましてや更新手続きをしない法定更新のエリアでは、トラブルさえなければ契約時の情報のまま。いざという時に連帯保証人や緊急連絡先と電話が繋がらない、連絡が取れない、誰が入居しているかも分からないといった状況にもなりかねません。
入居時には、審査をしっかりしたのです。であれば、入居者情報も常にアップデートしておきましょう。
関西で、夫婦と子どもふたりという4人家族が住んでいた案件です。ある時から滞納が始まり、明け渡しの手続きをご依頼いただきました。住民票を取得してみてびっくり! なんと契約者の夫は1年前に離婚して、すでにこの物件からは退去しているではありませんか。大家さんはその事実を、全く知りませんでした。
今現在、物件に誰が住んでいるかと調べたら、妻と子ども2人、そして別の男性が同居していました。大人の男女と子どもふたり。一見、家族構成が変わらないので、大家さんも疑いもしなかったようです。
さてこのケース、賃貸借契約の賃借人は元の夫のままでした。そのため彼を相手に、訴訟をすることになってしまいます。住民票をたどって連絡をとってみると、当然のことながらそれはそれは大憤慨のご様子。
気持ち的には自分ともう関係ない話の中で、子どもたちは新たな男性と一緒に暮らしている上に、あろうことか家賃を滞納しているという事実。同居の男性が離婚の原因になったかどうかは分かりませんが、家賃すらまともに払わない男性ですから、元夫としても好ましいはずがありません。
このようなことを、知りたくもなかったでしょう。でも仕方がありません、ご自身が契約者を変更していなかったのですから……。
事件が発覚した後、当事者たちは揉めに揉め、最終的に妻のご実家が滞納分を支払い、訴訟になるまでに4人には退去してもらうことができました。
でももし援助を受けられなかったら、契約者の元夫と現在の入居者全員を相手に訴訟する形になります。それはそれで大変なことになったでしょう。
さらには元夫と連絡がついたから良かったものの、そうでなければ手続きはもっと煩雑になっていました。
さらにはこんなケースもあります。生活費を圧縮しようと、ひとり住まいの人が同棲を始めます。ところがこれがうまくいかず、同棲解消。その際に、もともとの契約者がその部屋を出て、同棲相手が住み続けるというパターンです(意外に多いのです)。
前出のように一見して家族構成が同じではなく、男女が入れ替わっていてもトラブルがなければ家主側が気づくことは少ないのでしょう。
本来であれば元の契約を解約して、新たに同棲相手と賃貸借契約を締結するところ、敷金等が勿体無いと手続きすることはまずありません。こうなると家主側からすれば「現在住んでいるアナタは誰ですか?」という状態になってしまいます。入居者の情報が全く分からないのです。
契約時でこそ住民票の提出を依頼して審査したものの、途中で入れ代わってしまえば勝手に知らない人が住んでいるということになってしまいます。
このようなことにならないためにも、『この家主はきちんとしている』という印象を与えておかねばなりません。
まずは入居後、新居に登録した住民票を提出してもらいましょう。その上で更新時(法定更新であってもそのタイミングで)、契約時と状況が変わっていないか、変わっているならその部分を明らかにしてもらうよう促します。これは入居者だけでなく、連帯保証人等の連絡先も含めてです。そして少しでも変化があった場合には、新しい住民票を提出してもらう等のエビデンスも求めましょう。
トラブルのためだけでなく、災害時の安否確認のためにも大切なことです。賃貸借契約は継続する契約と認識し、常に入居者情報はアップデートする、この意識がトラブルを防ぐことを覚えておきましょう。
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