不動産投資で賃貸経営をする場合、様々な場面で税金が関わってきます。不動産の取得時・運用時・売却時それぞれ、いろいろな税金が発生します。
本記事を最後までお読みいただくことで、場面ごとに負担することになる税金について概要はもちろん、利回りを大きく左右するかもしれない支出部分をきちんと把握することができます。
賃貸経営にかかる税金を賃貸経営で失敗しないための現実的な収支計画に落とし込んでいただければと思います。
1. 不動産取得時にかかる税金
物件を購入するときには、次のような税金を負担する必要があります。
- 印紙税
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 消費税
それぞれ詳しく解説いたします。
1-1. 印紙税
不動産を購入する際には、売買契約書、ローン契約書、工事請負契約など様々な契約書を作成する必要があります。
そのとき、その契約に関わる金額に応じて印紙税を負担しなければなりません。
印紙を購入し、契約書等に貼り付け、印鑑を押すことで納税を済ませます。
印紙税については、契約金額によって細かくテーブルが分かれています。
参考:国税庁「不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」
不動産売買や工事請負の契約書の印紙税については、2020年(令和2年)3月31日まで軽減措置が講じられています。
あなたが投資を決断した時に軽減措置が適用されるか否かは、必ず確認をするようにしましょう。
1-2. 登録免許税
不動産を購入すると、その物件に関する様々な情報について法務局に登記をしなければなりません。その作業をするときに負担するのが登録免許税です。
登録する情報の種類(所有権や抵当権など)、物件の価額などの条件により税額が確定されます。
登録免許税は、基本的に以下の式で計算されます。
住宅用の建物については、2020年(令和2年)3月31日まで軽減措置が講じられています。
こちらの軽減措置についても、延長等がないか確認をするようにしましょう。
1-3. 不動産取得税
物件を取得したことに対して課される税金です。売買や新築、贈与により取得した時にその物件の価額に応じて税額が決まります。
なお、相続により取得した場合には不動産取得税は課税されません。
不動産取得税の計算方法
※特例で2021年(令和3年)3月31日までは土地(住宅用・非住宅用とも)・住宅用建物の標準税率は3%となります。住宅以外の家屋は4%と変わりません。
不動産取得税にも様々な軽減措置が用意されています。特例適用住宅と呼ばれる住宅や認定長期優良住宅に関するものなど、自分が購入する物件が該当するか否かについて確認をする必要があります。
併せて、タワーマンションに関する動向にも注意が必要です。タワマン節税と呼ばれる手法が富裕層を中心に流行したことの影響を受け、過剰な節税を防止する観点から2018年4月以降に引き渡されるタワーマンション高層階の物件について、税金が引き上げられました。
1-4. 消費税
消費税は、物件購入時に当然負担が必要です。ただし、注意が必要なのは土地と建物では取り扱いが異なるという点です。
土地の売買は消費税が課されません。マンションのような土地付き建物を購入する場合、土地と建物の金額がそれぞれどのように分かれているのかにより、負担額が変わってきます。
消費税の負担のことだけを考えれば、土地の比率が高いほうが消費税は安いことになります。ただし、後述する「所得税計算における減価償却」について考えると、建物の比率が高いほうが有利となります。
消費税については、不動産売買についての軽減措置は特に用意されていません。
消費税率が2019年10月以降は10%に引き上げられる予定ですが、売買等の契約が2019年3月31日までに済んでいる場合には、引き渡しが10月以降でも8%の税率が適用されることになっています。
購入時に関わってくる税金は概ね以上のようなものです。軽減措置等については「購入する物件の種類や床面積などの条件」「適用期限」などが常に変化し続けています。
特に不動産投資を検討する場合、初期コストを低く抑えることはその後の利回りに直結するので注意が必要です。
自分の購入する物件が条件に該当しているのか?
いつまでに購入をすれば適用されるのか?
これらについて、しっかりと検討しておいてください。
2. 不動産保有時にかかる税金
賃貸物件の運用により負担する税金には以下のようなものがあります。
- 固定資産税、都市計画税
- 所得税、復興特別所得税、住民税
1つずつみていきましょう。
2-1. 固定資産税、都市計画税
固定資産税と都市計画税は、毎年1月1日に不動産を所有している人が負担する必要のある税金です。
物件を保有している限り負担し続ける必要がある税金であるため、ランニングコストを考える上で非常に重要度が高い税金といえます。
市区町村側が設定する課税標準額に税率を乗じることで税額が計算されます。
都心部においては、不動産価額の高騰が進んだことから、固定資産税等の税額も増加傾向にあります。
一方で地方においては人口減少や物件の過剰供給も影響し、課税標準額は下落傾向にあります。
住宅用の物件や宅地に対する軽減措置が講じられています。
また認定長期優良住宅等に対してはさらなる減税措置も用意されています。
これらの措置についても取得物件の条件や適用期限が設定されていますので、必要な手続きを含め事前の確認が重要です。
実は、この軽減措置が全国各地で頻発している空き家問題の原因ともされています。
空き家のままでも住宅の敷地にしておけば固定資産税が軽減される。そんな理由で誰にも貸し出されない空き家が全国で放置されているのです。
そこで空き家状態で放置されている物件については軽減措置を適用しない、あるいは空き家の処分について行政側に一定の権限を与えるなど対抗措置が進んでいます。
2-2. 所得税、復興特別所得税、住民税
賃貸物件の運用により負担する税金で、特に重要なのが所得税、復興特別所得税、住民税の3つの税金です。不動産賃貸により得られた利益(所得)に対して課税されます。
ただし、賃貸物件による利益のみで課税がされるのではありません。その人が得た様々な所得(給与、事業、譲渡など)を合算し、その合算後の所得に対して税金を課します。
2人の人間が同じ賃貸物件を所有し、同じように運用をしていても、他の所得の状況が異なれば負担する税額は異なることになります。
給与や事業の所得が大きければ、不動産所得がそれほど大きくなくても税負担は大きくなります。
所得税については複雑なので、次章で計算に必要な項目と計算方法を詳しくみていきます。
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3. 所得税の計算方法
まず、給与や事業(自営業)、不動産など、それぞれの種類ごとに所得金額を計算します。
次に、不動産所得の計算において収入とすべきものと必要経費になるものを確認します。
所得税の計算は、
という計算で求められます。
課税所得は、通勤手当や旅費などを除く収入額から、社会保険料や労働保険料、配偶者控除、寄付金控除といった所得控除を差し引いて算出した所得額です。
3-1. それぞれの所得を計算する
① 収入となるもの
- 家賃、地代、礼金、権利金、更新料など
-
様々な名称がありますが、これらはすべて収入に含まれます。また共益費や共用の水道光熱費を徴収している場合にも収入となります。
- 敷金、保証金(返金不要の部分)
-
これらの金額は、基本的には預かっているだけのもので、借り主が退去するときには返却をする必要があります。
しかし、契約において「1ヶ月分は即時償却」などの取り決めがされている場合、その部分は退去時に返金しないことが既に決まっています。このように受け取った時点ですでに返金不要が確定している敷金・保証金については、その時点で収入として計上しなければなりません。
- 付随収入
-
また賃貸物件に付随する形で生じた収入(電柱や自動販売機の設置料など)も含まれます。
※権利金について
権利金に関しては、一部で不動産所得から除外されるものがあります。通常の権利金は不動産所得として収入に計上されますが、借地権等に該当し金額が一定要件以上に高額な場合には、土地の譲渡に類する取引であるものとして取り扱われるため、不動産所得ではなく譲渡所得として取り扱われます。
② 経費となるもの
賃貸物件に係る支出のうち、次のようなものは必要経費に該当します。
- 租税公課
-
賃貸物件に係る税金一般です。上で紹介した固定資産税や都市計画税、契約に係る印紙税、所得に応じて課される事業税が該当します。また消費税について税込経理方式を採用している場合には、消費税も経費に該当します。
- 損害保険料
-
火災保険など物件に関する保険が該当します。基本的には支出額がそのまま経費に該当しますが、長期間の保険料を一回で支払っている場合には、年ごとに按分する必要があります。
- 修繕費
-
物件の修繕にかかった費用は必要経費に該当します。ただし、ここで注意をしなければならないのは「資本的支出」に該当するものです。
資本的支出とは「新たな設備投資と認められるもの」「新機能の追加や物件の価値向上に寄与するもの」です。例えば退去に伴って古い壁紙を剥がして新しいものに張り替えただけであれば、単なる原状回復なので必要経費に該当します。
しかしそのときに「せっかくだから新しい間仕切りを追加しよう」など新機能を追加した場合、それは経費ではなく固定資産として計上し、後述する減価償却の手続きで費用にしていく必要があります。
- 減価償却費
-
購入した物件のうち、固定資産(高額で長期間利用できるもの)に該当するものは購入時に即経費にできるわけではありません。その固定資産の種類や材質に応じて、所定の年数で少しずつ費用にしていきます。
賃貸物件の運用においては、物件の建物本体部分がもっとも大きな固定資産です。物件の構造(木造、鉄骨、鉄筋コンクリートなど)や用途(住宅、事務所、倉庫、店舗など)に応じて耐用年数が定められています。
物件購入時に負担する消費税の項目で触れましたが、土地付き建物を購入した場合、その金額について土地部分と建物部分に分ける必要があります。
この内、減価償却により経費処理ができるのは建物部分だけで、土地部分は経費として処理ができません。
仮に同じ5,000万円の物件でも「土地が3,000万円で建物が2,000万円」と「土地が2,000万円で建物が3,000万円」であれば、後者のほうが不動産所得を計算する上では有利となります。減価償却で費用にできる金額が大きいほうが、不動産所得の金額が圧縮できるためです(ただし後述する「売却時の譲渡所得」計算においては不利になります)。
固定資産には、建物本体以外にも附属設備(電気工事、給排水工事など)や構築物(外構や塀)、器具備品(空調設備や家具など)があります。
これらの固定資産は、建物本体に比べると耐用年数が短く設定されています。つまりそれだけ早くに費用処理ができるので、購入時点で「建物」「建物附属設備」「構築物」「器具備品」等について、しっかりと区分して処理をすることが非常に重要です。
また上述の通り、修繕費の内資本的支出に該当するものは、固定資産として処理をして減価償却の手続きにより経費として計上されていきます。
- 広告宣伝費や管理費
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仲介会社等に支払う賃貸物件運用にかかる支出です。
- 税理士や弁護士、司法書士に対する報酬
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不動産運営に係る各種作業を依頼したことに対する報酬は経費となります。
- 管理用物品の購入や共用部の水道光熱費
-
廊下の蛍光灯や共用水道の料金です。
- 物件の購入に係る借入金に対する利息
-
賃貸物件購入時には、多くの場合融資を活用します。その融資に対する支払利息は経費に該当します。
ただし、賃貸事業開始後に支払った部分ですので、注意が必要です。事業開始前に支払った利息は物件の取得価額に参入されます。なお、すでに賃貸物件を保有している人が追加で賃貸物件を取得する場合には、新物件の賃貸前に支払った利息も経費として処理ができます。
注意をして頂きたいのは、借入の元本部分です。借入元本の返済は、どんなに支出をしても経費ではありません。「借りていたお金を返しただけ」ですので、経費ではないのです。
もし借入元本の返済が経費になるとしたら、逆にお金を借りたときには収入を計上しなければならなくなります。
借入金の返済は、経費には該当しない支出としてしっかりと把握しておく必要があります。
不動産賃貸における非常に重要な論点の一つですので、事前にしっかりとシミュレーションしておきましょう。なお、所得税や住民税そのものは経費に該当しません。また生活費に該当する部分は経費に含めることができません。賃貸用の経費と生活費が混在しないように注意しましょう。
③ 計算した所得を合算する
給与や事業、不動産など個別に計算した所得を合算します。なお、土地や建物の譲渡については合算をせず、分離課税が適用されます。
④ 所得控除額を計算する
社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除等、その人ごとに適用できる控除額を計算して、合算した所得から控除します。控除した後の残額が課税所得金額です。
⑤ 課税所得金額に税率を乗じる
このとき、所得税については超過累進税率が適用されます。課税所得金額が高ければそれだけ税率が上がっていきます。なお住民税については、課税所得金額にかかわらず一律で10%が乗じられます。
⑥ 税額控除があれば適用する
いちばん有名なものは住宅ローン控除です。
実際には所得税(および復興特別所得税)と住民税では計算体系が異なっているなど細かな点で異なります。
また所得税は「当年の所得に対して税金が課される」のに対して、住民税は「前年の所得を基に当年の税金を計算する」という仕組みになっています。
大きな所得が出た翌年は住民税が高くなるので、納税資金等には余裕を持っておくようにしましょう。
3-2. 消費税
賃貸物件が商業施設や倉庫の場合、賃料収入には消費税を加えて受け取ることになります。
預かった消費税から経費等で支払った消費税を引き、残った消費税額を税務署に納める必要があります。
なお、賃貸物件が住宅の場合には消費税はかかりません。
消費税の納税義務は、事業規模が一定以上になると発生します。具体的には課税売上が年間で1,000万円に到達する場合です。
ただし、納税義務判定にはいろいろな例外もあるため、店舗や事務所など消費税の課税物件を取り扱う場合には、しっかりと確認しておく必要があります。
また納税額計算にも原則的な方法と簡易的な方法があり、有利不利について判定しなければなりません。
4. 不動産売却時の税金
保有していた賃貸物件を売却した場合には、譲渡所得税と住民税を負担する必要があります。
譲渡所得は以下の式で計算されます。
ここで注意したいのは取得価額の部分です。不動産賃貸をしている場合、減価償却の手続きにより毎年の不動産所得計算において経費を計上しています。
そうやって費用処理された金額を差し引いた残額が譲渡所得を計算するときの取得価額です。
物件を長期間保有している場合、減価償却で相当額を経費処理していますので、譲渡所得の計算時にはあまり取得価額が残っていない場合があります。
なお、土地部分は買ったときの価額がそのまま残っていることになります。
譲渡所得の計算では、物件の保有期間に応じて適用される税率が異なります。
また賃貸物件について特例等はありませんが、自己の居住用物件を譲渡している場合には色々な特例もあります。
譲渡については譲渡費用の取り扱いなども含めて注意すべき点が多数あります。必ず譲渡をする前に「自分の使えそうな規定」について確認をするようにしましょう。
まとめ
賃貸経営にかかる税金についての概要を説明しました。
いずれも特別控除などで軽減できる場合があるため、十分に確認しておく必要があります。
また、特に所得税については、何が収入にあたり、何が経費とされるかについて把握しておくことが肝要です。
賃貸経営を成功させるためにも、不動産の取得時・運用時・売却時それぞれに発生する税金についてきちんと理解し、アパートを建てるもしくは購入する前に現実的な収支計画を立てていただければと思います。
(2019年12月17日追記:本記事の掲載内容は、2019年10月1日公開日時点での情報です)
この記事を監修│専門家プロフィール
-
- 高橋 昌也
- 税理士
高橋昌也税理士・FP事務所
2006年税理士試験に合格し、翌年3月高橋昌也税理士事務所を開業。
その後、ファイナンシャルプランナー資格取得、
商工会議所認定ビジネス法務エキスパートの称号取得などを経て、現在に至る。
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